大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)809号 判決 1980年7月10日
控訴人 三共開発株式会社
右代表者代表取締役 榊原光雄
右訴訟代理人弁護士 松本泰郎
被控訴人 野沢勝治
右訴訟代理人弁護士 藤巻一雄
同 南逸郎
同 佐藤健二
同 横清貴
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 控訴人は被控訴人に対し原判決別紙目録記載の土地を明渡し、かつ、昭和五五年三月一三日から明渡済まで一か月金一二万円の割合による金員を支払え。
2 被控訴人のその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用は第一・二審とも控訴人の負担とする。
事実
一 控訴代理人は「1 原判決を取消す。2 被控訴人の請求を棄却する。3 訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「1 本件控訴を棄却する。2 控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
二 当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
(控訴人の主張)
1 控訴人が、実際に本件土地を使用し、営業を開始した昭和五二年九月一五日には、被控訴人との間で本件土地について有償使用の合意があったから、本件土地の貸借は賃貸借であった。
すなわち、控訴人は、被控訴人と本件土地貸借の合意をした後、本件土地以外の被控訴人所有土地とこれに隣接する農業用水路との境界に高さ約一・八ないし二メートル、長さ約一〇〇メートルのブロック塀の構築工事を大淀建設株式会社(以下、訴外会社という。)に請負わせて行い、その代金一七二万八〇〇〇円を支払ったほか、右農業用水路上の橋の使用負担金一八万円を昭和五二年八月三一日に水利組合に支払い、これら金員を本件土地の地代として控訴人が負担する旨を被控訴人と合意した。
2 控訴人の役員間の内紛は、本件土地の貸借につき控訴人と被控訴人間の信頼関係を破壊する事由には当らない。
すなわち、控訴人の監査役井上保尾(以下、井上という。)と取締役橋爪道夫(以下、橋爪という。)との間で料金の徴収に関する不正をめぐって内紛があったが、橋爪は控訴人以外の会社の代表者であり、控訴人の代表取締役榊原光雄(以下、榊原という。)も他に建築設計・施工の仕事に従事していて、控訴人は井上と作業員西田某(以下、西田という。)とが取り仕切っていたものであるから、井上と橋爪間の前記内紛は本件土地貸借と何らの関係もないのである。
3 本件土地の賃料相当月額が一二万円であることは認める。
(被控訴人の主張)
1 控訴人の前記1の主張は自白の撤回に当り、右撤回には異議がある。
2 右主張が自白の撤回に当らないとしても、すべて争う。
控訴人主張のブロック塀構築工事費用(但しその金額は五一万四一〇〇円である。)及び水路上の橋の使用負担金は、控訴人が営業の許司を受けて事業を開始するうえで必要であった費用であり、被控訴人とは全く関係のないものであって、これを控訴人が負担したところで、本件土地の賃料を支払ったことにはならない。なお、右ブロック塀構築工事費用のうち三〇万円は被控訴人が控訴人に援助した資金で決済されている。
3 本件土地使用貸借契約の解除理由(解除の意思表示は訴状による。)として、次のとおり追加して主張する。
(一) 本件土地の使用貸借契約は被控訴人と控訴人との間でなされたものであるが、控訴人の事業は実質的には榊原、橋爪、井上三名の個人事業の色彩の強いものであったから、被控訴人は右三名を信頼して無償で貸与したものである。
(二) ところで、被控訴人は、かねてから娘のために建物の建築を計画していたところ、昭和五二年七月橋爪が経営する訴外会社に右工事を請負わせ、工事代金は四〇〇万円と約定したが、同年一〇月一三日、橋爪の懇請を容れて右四〇〇万円に五〇万円を加えた四五〇万円を支払って工事代金を完済した。
(三) ところが、訴外会社は、昭和五三年四月五日被控訴人を被告として、大阪地方裁判所に工事代金残一一一万六八五五円が存在すると主張してその支払を求める訴(同裁判所昭和五三年(ワ)第一九四九号請負代金請求事件)を提起したが、訴外会社の代表者橋爪が見積書類を捏造したうえ、被控訴人に対し架空の工事残代金が存在する旨装って右訴を提起したものであって、これは被控訴人に対する不法行為となるというべきである。
(四) 橋爪の右不法行為は被控訴人と控訴人との本件土地使用貸借契約の存続を困難ならしめる重大な背信行為である。
4 予備的に、昭和五五年三月一〇日付、同月一二日到達の準備書面をもって、本件土地使用貸借の終了事由として次のとおり主張する。
(一) 被控訴人が本件土地を無償で控訴人に貸与することを承諾したのは、井上を援助する目的のためであり、このことは榊原、橋爪も十分承知していたから、右三名の共同事業が破綻した時には本件使用貸借契約も終了することが当初から予定されていた。
(二) 昭和五二年一〇月末頃、井上と橋爪との間で料金徴収についての中傷から内紛が生じ、橋爪はブルドーザー等を引き揚げて共同事業から手を引き、さらには榊原、橋爪両名が控訴人(会社)を金融業者に売渡す工作をする等して、ついに右共同事業は破綻してしまった。
(三) したがって、本件土地使用貸借契約は、その目的の消滅により終了したものであるから、控訴人は民法五九七条二項により被控訴人に対し本件土地の明渡義務があるので、被控訴人はその明渡を求める。(証拠)《省略》
理由
一 被控訴人の請求の原因一、二の事実及び同三の事実のうち、控訴人が被控訴人に対し大阪地方裁判所堺支部に仮処分申請(同庁昭和五三年(ヨ)第二五一号)をし、その理由として「被控訴人が本件土地内に無断で立入り、控訴人に対する産業廃棄物処理の依頼客から勝手に料金を徴収して取込んでいる。」旨主張したが、右申請が同年七月二〇日却下されたこと、本件土地の賃料相当月額が一二万円を下らないことは当事者間に争いがない。
二 控訴人は、昭和五二年九月一五日には被控訴人との間で本件土地について有償使用の合意をした旨主張するが、曖昧で措信できない当審証人橋爪道夫の証言及び当審における控訴人代表者の尋問の結果を除き、これを認めるに足りる証拠はない(被控訴人は、控訴人の右主張をもって自白の撤回であるとして異議を述べるが、控訴人の当審における右主張は、被控訴人と控訴人との間の昭和五〇年八月一〇日における無償使用についての合意の存在を否定しているものとは解されないから、自白の撤回には当らないものというべきである。)。
むしろ、後記三認定の事実にもかんがみると、控訴人の本件土地使用は、被控訴人との昭和五〇年八月一〇日の使用貸借契約によるものというべきである。
三 そこで、本件土地の使用貸借契約の終了の有無について判断する。
前記争いのない事実、《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。
1 控訴人は総合建築工事の設計施工、産業廃棄物処理等の事業を目的とする株式会社であって、榊原が代表取締役、橋爪が取締役、井上が監査役の地位にある。
被控訴人は、井上の妻の伯父で、大阪府松原市大堀町一八番一田一三五一平方メートル(以下、一八番の一の土地という。)を所有しているものである。
2 井上は、昭和五二年四月頃金物販売業をやめ、同年六月頃かねて知り合いの橋爪及び榊原との三名で産業廃棄物処理業を営む計画を立て、まず橋爪において休眠会社である信和工業株式会社を買収して商号及び目的の変更等の定款変更手続をし、重機(ブルドーザー等)を用意すること、次に井上において被控訴人との姻戚関係によって廃棄物の中間処理場の用地として被控訴人から土地を借受けること、榊原においては大阪府知事に対し廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下、法律という。)一四条所定の許司申請手続を行うこと等を取決めた。
なお、廃棄物の最終処理場としては、橋爪が昭和五二年八月二九日までに堺市七―三区の土地を利用する契約を締結した。
3 そこで、井上は、同年六月頃橋爪と同道して被控訴人方を訪れ、前項の事業計画の概要を説明したうえ、「廃棄物の中間処理場の用地として一八番の一の土地を借受けたい。控訴人としては資金がないので、無償で使用させてもらいたい。」旨申入れたところ、被控訴人は、姻戚関係にあって失業中でもあった井上を援助する目的で「一度やってみい。男になったらいい。」といって右申入れを快諾した。榊原は、その後間もない頃井上及び橋爪から一八番の一の土地の貸借のいきさつについて説明を受けた。
4 控訴人は、前記の如く株式会社ではあるが、実質的には廃棄物処理業は榊原、橋爪、井上の三名(以下、榊原らという。)が行う共同事業であり、榊原らは、控訴人が被控訴人から一八番の一の土地(したがって、その西側は原判決別紙図面表示の水路と接する。)を借受け、廃棄物の中間処理場として使用する予定のもとに、産業廃棄物処理業の許司申請上要求される事業場・処理施設の隣接地の所有者等の同意書を得ることとし(なお、法律、同法施行令、同法施行規則には、許可申請者に隣接地の所有者等の同意書の提出を義務づける規定は存在しないので、大阪府の行政指導により同意書の提出が必要とされているものと推認される。)、主として井上において、まず一八番の一の土地の西側の水路についての権利者である大堀水利組合の代表者小西富三郎(以下、小西という。)と折衝したところ、小西から「一八番の一の土地と水路との境界線上に石垣があるが、今までにもその石や土が水路に落ちている。控訴人が一八番の一の土地を廃棄物の中間処理場として使用するのであれば石垣部分に擁壁を設置して石や土が落ちないようにしてもらいたい。また控訴人は水路上の橋をも利用することになるので、水利協力費として一八万円を支払ってもらいたい。そのうえで同意する。」旨求められたので、井上は榊原及び橋爪と相談し、被控訴人からも了解を得たうえで、控訴人として右擁壁工事を施行することとした。
榊原らは、ブロック積擁壁の工事材料を橋爪が経営する訴外会社から買入れ、山中某にブロック積工事を請負わせて行い、その余の作業は、井上、西田及び橋爪の弟の三名に行わせた。
右擁壁工事は昭和五二年七月頃に開始され、同年九月初め頃に長さ約七〇メートルの擁壁が完成した。
5 橋爪は同年八月三一日控訴人名で大堀水利組合に対し水利協力費名下に橋の使用料として一八万円を支払い、同組合から前記同意書を得たほか、その頃大堀町町会、隣接地所有者辻野音次郎からも右同意書を得た。
6 ところで、榊原らは、同年八月初め頃、控訴人が一八番の一の土地全部を借受けて中間処理場として利用することは土地開発に関する法令の制限に触れるおそれのあることが判明したため、控訴人が借受ける土地の範囲を一八番の一の土地のうち前記通路の東側部分に縮小し、同月一〇日被控訴人からこれを借受けその引渡を受けた(《証拠省略》では面積が九四五・四九七平方メートルと記載されているが、控訴人が引渡を受けた範囲は本件土地の八二八・二五平方メートルである。)。
7 榊原は、同年九月初め頃に前記同意書その他法律施行規則等に定められた必要書類を揃えて大阪府知事に対し法律一四条所定の許可申請をし、その頃許可を得た。
8 そこで、控訴人は、同年九月一五日から産業廃棄物処理業を開始したが、控訴人において貨物自動車一台を購入したほか、橋爪において訴外会社の所有にかかるブルドーザー一台を提供し、訴外会社の従業員に控訴人の帳簿の記帳をさせ、売上金を徴集して銀行預金として管理する等をし、また、前記最終処理場を利用させることとしたが、榊原と同様に控訴人の現場作業には関与せず、右作業はもっぱら井上と西田が担当していた。
9 控訴人は、他の事業者から委託を受けて産業廃棄物の収集、運搬又は処分(以下、廃棄物の処理という。)することを業として行うものであるが、特定の事業者とは継続的な廃棄物処理委託契約を締結し、その料金の前払の形でチケットを販売し、廃棄物の処理を終えたとき委託者からチケットを回収することとしていたところ、井上が昭和五二年一〇月頃先に橋爪、榊原と相談して決めた正規のものと異なるチケットを販売して代金の徴収をしておることを橋爪において発見し井上に注意したことから、橋爪と井上との間で争いが生じ、橋爪は同月末頃控訴人の事業から手を引き、訴外会社の従業員にさせていた控訴人の帳簿の記帳を同月限りでやめさせるとともに、同年一一月末頃控訴人に提供していたブルドーザー一台を引き揚げ、それ以来本件土地へ出入しなくなった。その結果、控訴人は、前記最終処理場を使用しえなくなって事業の正常な運営が不可能となり、本件土地上には廃材と残土の混合物である廃棄物が堆積されたままの状態で放置されていた。
また、控訴人の本店は登記簿上肩書地にあるが、そこは榊原の友人の事務所があるにすぎず、現在では控訴人の看板も外されている。
10 橋爪は、榊原と相談のうえ、同年一一月頃控訴人(会社)を金融業者の金城某へ売却することを企図し、橋爪の意を受けた榊原において井上に対し、賃借人欄に控訴人の記名及び印のあるだけの賃貸借契約書用紙を交付したうえ、「大阪府との関係で必要であるから被控訴人に本件土地の賃貸借契約書を作ってもらいたい。」旨申入れたが、これより先に金城から事情の説明を受けていた井上は、橋爪及び榊原の意図を察知し、右申入が虚偽の事実に基くものであることを見抜いていてこれに応じなかった。
その後榊原も本件土地に出入することがなくなり、現在に至っている。
11 また、橋爪が経営する訴外会社は、同年七月被控訴人から建物建築工事を請負い、同年一二月これを完成して引渡し、約定の請負代金全額の支払を受けたものであるが、同月末頃被控訴人に対しなお未払代金があると主張してその請求をしたため、被控訴人は、これを否認しただけでなく、本件土地の無償使用を許した好意を無にしたものとして、同月末頃控訴人に対し本件土地の同年六月分からの賃料の支払を要求するに至った。
これに対し、控訴人は、前記擁壁工事材料費、水利協力費は、被控訴人が負担すべきものであって控訴人がその立替支払をしたから、この求償債権と賃料債務とを相殺する旨主張して譲らず、その話合いがつかないまま被控訴人との対立関係を強めるばかりであった。
12 のみならず、控訴人は、昭和五三年になって、「被控訴人が同年一月頃より無断で本件土地内に立ち入り、控訴人に対する産業廃棄物処理の委託者から勝手に料金を徴収して取込んでいる。」旨を理由として本件土地に関する不動産仮処分申請を大阪地方裁判所堺支部(昭和五三年(ヨ)第二五一号)になしたが、申請の理由は事実に反するものであったから、右申請は却下されたものの、このため被控訴人は強く感情を害され、控訴人代表者である榊原に激しい怒りを感じている。
13 被控訴人は、昭和五二年末から本件土地上に堆積されたままの廃棄物の処理に困り、井上にその処理を求めたものの、昭和五三年一月には西田も退職してブルドーザーもないので、やむなく費用を出して井上のためにブルドーザー一台を購入し、同人にその処理に当らせているが、現在でも昭和五二年末頃の約半分の廃棄物が堆積されたままとなっている。
14 被控訴人は控訴人に対し昭和五三年一一月一三日到達の本訴状により本件土地の使用貸借を解除する旨意思表示をした。
以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》
四 ところで、本件のような土地の使用貸借においても、その継続的な契約関係等にかんがみ、当事者の一方に使用貸借契約(特約を含む。)の要素をなす義務又は信義則上要求される義務に違反し、信頼関係を裏切って使用貸借関係の継続を著しく困難ならしめる行為があった場合には、相手方は催告を要せず使用貸借契約を解除することができるものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、前記認定の事実によれば、① 榊原(控訴人代表取締役)及び橋爪(同取締役)は相談のうえ控訴人(会社)を他の金融業者へ売却しようと企図し、そのため、控訴人が本件土地を無償で使用しているにすぎないのに、虚言を用い井上を通じて被控訴人に本件土地の賃貸借契約書を作成させようと図ったこと、② 控訴人は、その事実がないのに、被控訴人が控訴人に対する廃棄物処理委託者から料金を勝手に徴収して取込んでいると主張して、本件土地について被控訴人に対する仮処分申請をしたこと、③ 控訴人は昭和五二年末から現在まで本件土地上に廃材と残土の混合物である廃棄物を堆積したまま放置したため、被控訴人はこの処置に困り井上に命じて廃棄物の処理に当らせていることが認められるが、榊原、橋爪の控訴人を売却しようとする企図は、これを事前に察知した井上により未然に防止されているから、榊原、橋爪の①の行為は未だこれをもって控訴人と被控訴人との信頼関係に著しく影響を及ぼすものとはいえず、また、②の行為当時においては、控訴人(榊原ら)の事業は既に破綻しており、被控訴人の姪の夫である井上において独断で正規のものではないチケットを販売して料金を徴収し、被控訴人においても、訴外会社からの請負残代金請求に対する対抗上とはいえ、何らの根拠もないのに昭和五二年六月からの本件土地の賃料を請求したこと等があって、控訴人と被控訴人とが相互に不信感を強めていった過程で、②の行為が行われたものであるから、これをもって控訴人と被控訴人との使用貸借契約上の義務違反といえないことはもとより、控訴人が使用貸借関係において信義則上要求される義務に違反したとも認められない。さらに、本件土地は廃棄物の中間処理場として使用する目的で貸借されたものであって、控訴人が相当の期間本件土地上に廃棄物を堆積させることは当然予定されていたところであるから、控訴人が昭和五二年末から本件土地上に廃棄物を堆積させ、放置している③の行為がただちに本件土地の使用貸借上の用法違反に当るとまではいえない。
また、前記認定の事実によると、橋爪が代表者をしている訴外会社は請負者として注文者である被控訴人から建物建築請負代金の支払を受けたのに、なお未払代金があると主張してその請求をしたことがあるが、このことはあくまでも訴外会社と被控訴人間の事情であって、したがって控訴人において被控訴人との間での前記各義務違反があったとはいえない。
他に控訴人において前記各義務違反があったと認めるに足りる証拠はないから、被控訴人の控訴人における背信行為を理由とする本件土地使用貸借契約の解除の主張は失当である。
五 そこで、被控訴人の当審における予備的主張について判断する。
前記三認定の事実によると、被控訴人は、失業中の井上を援助する目的で、実質的には榊原らの廃棄物処理業のために本件土地の無償使用を許したものであるところ、榊原らの事業は、内紛のため開始後早々の昭和五二年一一月末日には頓挫し、その後榊原らが円満な協力関係を回復して事業を再建し、事業運営上本件土地を使用していくことは不可能となり、控訴人の当初における本件土地使用貸借の目的は達しえなくなったものと認められる。
右の如く、控訴人は本件土地の使用貸借契約の目的を達しえなくなったものではあるが、同契約において定めた使用収益を実際に相当期間行いこれを完了したものではないから、本件につき民法五九七条二項本文を適用し、控訴人(榊原ら)の事業が破綻した昭和五二年一一月末日限り本件土地使用貸借が当然に終了したものと解すべきではなく、むしろ、被控訴人は同条但書の類推適用により控訴人に対し本件土地の返還請求をすることができるにすぎないものと解するのが相当である。
そして、被控訴人が控訴人に対し使用収益の終了を理由として本件土地の明渡を求めた被控訴人の昭和五五年三月一〇日付準備書面が同月一二日控訴人訴訟代理人に到達したことは本件記録上明らかであり、本件土地使用貸借契約は同月一二日限り請求により終了したものというべきであるから、控訴人は被控訴人に対し本件土地を明渡し、かつ右返還請求の翌日である同月一三日から明渡済まで賃料相当損害金として一か月一二万円の割合による金員を支払うべき義務があり、被控訴人の請求は右認定の限度で正当として認容すべきものである。
六 以上の次第で、右判断と異なる原判決は相当でなく、本件控訴は一部理由があるから、原判決を主文第一項のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 仲西二郎 裁判官 林義一 大出晃之)